介護の仕事をしていると、利用者さんと
親しくなることがあります。
毎日のように顔を合わせ、
一緒に笑ったり、
悩みを聞いたり、
時にはご家族にも話さないようなことを
話してくださったり。
「あなたがいると安心する」
そんな言葉をいただくこともあります。
介護職として、とても嬉しいことです。
私もこれまで、たくさんの利用者さんと
親しくさせていただきました。
でも、長く介護の仕事を続ける中で、
私は一つ大切にしていることがあります。
それは、
親しくなることと、
馴れ馴れしくなることは違う。
ということです。
「〇〇ちゃん」と呼ぶことに感じる違和感
介護の現場では、利用者さんを
「〇〇ちゃん」
と呼んでいる場面を見かけることがあります。
職員に悪気があるわけではないと思います。
長く関わって親しくなった。
かわいらしい方だから。
本人も嫌がっていないように見える。
親しみを込めて呼んでいる。
いろいろな理由があるのでしょう。
でも私は、少し立ち止まって考えます。
目の前にいる方は、私たちより
長い人生を歩んできた一人の大人です。
子どもではありません。
そして何より、
私たちは、その方がどんな思いで
その名前と一緒に生きてきたのか、
すべてを知っているわけではありません。
私がそう強く思うようになったのには、
ある利用者さんとの出会いがありました。
「そのさん」という女性
以前、「その」という名前の女性と出会いました。
「そのさん」
とても可愛らしい響きの名前です。
でも、ご本人から名前について話を
聞いたことがありました。
子どもの頃、
「あの、その」
と、名前をからかわれたことが
あったそうです。
その経験から、ご本人は自分の名前が
あまり好きではないと話されていました。
名前を聞いただけでは、そんな
経験があったことは分かりません。
可愛らしい名前だから、
「そのちゃん」
と呼んだら喜んでくれそう。
そう考える人もいるかもしれません。
でも、その呼び方をどう感じるかを
決めるのは、私たちではありません。
その名前で人生を歩んできた、ご本人です。
親しみを込めた呼び方だったとしても
ある日、他の事業所の介護職員が、その方を
「そのちゃん」
と呼んでいることを知りました。
私は、そのことについて事業所に
伝えたことがあります。
もしかすると、
「それくらいのことで」
と思う人もいるかもしれません。
でも私は、ご本人が自分の名前について
どんな思いを持っているのかを知っていました。
だから、見過ごすことができませんでした。
職員にとっては親しみを込めた一言だった
かもしれない。
でも、ご本人にとっては、幼い頃の嫌な記憶に
つながる呼び方かもしれない。
同じ言葉でも、受け取る側によって
意味はまったく違います。
この経験は、私が利用者さんとの距離について
考える大きなきっかけになりました。
親しみは、呼び方でつくるものではない
この経験もあり、私は利用者さんを呼ぶとき、
どれだけ親しくさせていただいても、
基本的に「名字+さん」で呼ぶことを
大切にしています。
長く関わっている方でも、
冗談を言い合えるような関係に
なった方でも、
そこは変えません。
それで距離ができてしまったり、
信頼関係が築けなかったりしたことは、
これまで一度もありません。
むしろ私は、
丁寧に接することと、
心の距離が近いことは両立できる。
そう思っています。
「さん付けでは距離が縮まらない」
そう考える人もいるかもしれません。
でも、私はそうは思いません。
信頼関係は、呼び方を崩すことで
生まれるものではないからです。
話をきちんと聞く。
約束したことを守る。
その人の気持ちを考える。
嫌がることをしない。
小さな変化に気づく。
困っているときにそばにいる。
そんな毎日の積み重ねから、
「あの職員なら安心できる」
という気持ちが生まれるのでは
ないでしょうか。
だから私は、
親しくなったから敬意がなくなるのではなく、
親しくなったからこそ、敬意を忘れない。
そんな介護職でありたいと思っています。
「その人を大切にする」とは
介護では「寄り添う」という言葉を
よく使います。
でも、寄り添うということは、ただ距離を
近づけることではないと思います。
その人が大切にしてきたものを知ろうとする。
その人が嫌だったことを知る。
その人が歩んできた人生を想像する。
そして、
自分がどう接したいかではなく、
その人がどう接してほしいのかを考える。
そのさんとの出会いは、私にそのことを
教えてくれました。
親しさと、馴れ馴れしさは違う。
優しさと、子ども扱いも違う。
そして、
敬意と親しさは、
決して反対のものではありません。
どれだけ親しくなっても、
目の前にいる一人の人を尊重すること。
私はこれからも、その距離を
大切にしながら利用者さんと関わって
いきたいと思っています。


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