介護の仕事をしていると、利用者さんの言葉
や行動に、思わず腹が立ってしまうことが
あります。
「介護職なのだから、怒ってはいけない」
「認知症なのだから、仕方がない」
そう自分に言い聞かせても、気持ちがついて
いかないことがあります。
私にも、そんな経験があります。
「やっと終わった」と思った、その瞬間
ある日のことです。
重度の認知症があり、寝たきりの利用者さんの
排泄介助をしていました。
その方は、介助の際に職員へ手や足が
出てしまうことがありました。
その日は排泄物が背中まで広がり、太ももにも
付着している状態でした。
衣類を交換し、身体をきれいに拭きながら、
一つひとつ介助を進めていきました。
ようやくすべてが終わり、
「きれいになった。よかった」
そう思った、その瞬間でした。
利用者さんの足が、私に向かって飛んできました。
私は蹴られました。
「介護職なのに」そう思った自分
その瞬間、私の中に湧いてきたのは、
「なんで?」
という気持ちでした。
一生懸命きれいにしたのに。
少しでも気持ちよく過ごしてもらいたいと
思って介助したのに。
どうして蹴られなければならないのだろう。
正直、腹が立ちました。
でも、その直後に浮かんできたのは、
「介護職なのに、こんなことで腹を立てて
いいのだろうか」
という、もう一つの気持ちでした。
認知症だから仕方がない?
認知症のある方の行動には、その方なりの
理由や背景があることがあります。
言葉でうまく伝えられない不安。
身体に触れられる怖さ。
痛みや不快感。
自分に何をされているのか分からない混乱。
私たちには突然の行動に見えても、その方にとっては
何かを伝えるための行動だったのかもしれません。
介護職として、その背景を考えることはとても大切です。
でも、それと、
「介護職は何をされても何も感じてはいけない」
ということは、私は違うと思っています。
介護職員だって人間です
痛ければ、痛い。
悲しければ、悲しい。
理不尽だと感じれば、腹が立つことだってあります。
介護の仕事をしているからといって、
感情がなくなるわけではありません。
むしろ、人と深く関わる仕事だからこそ、
心が動く場面はたくさんあります。
嬉しい。
楽しい。
悔しい。
悲しい。
そして、腹が立つ。
どれも人間として自然な感情だと思います。
大切なのは、
「腹を立てないこと」ではなく、
「腹が立った自分をどう扱うか」
なのではないでしょうか。
感情と行動は別のもの
腹が立ったからといって、その感情を利用者さんに
ぶつけていいわけではありません。
そこは、介護の専門職として守らなければならない
部分です。
でも、
「こんなことで腹を立てる私は介護職失格だ」
と、自分の感情まで否定する必要もないと私は
思います。
一度その場から気持ちを離す。
仲間に話を聞いてもらう。
なぜその行動が起きたのかを、落ち着いてから
振り返る。
必要であれば、介助方法や関わり方を職員同士で
考える。
そうやって自分の感情を整理してから、また
利用者さんと向き合えばいい。
25年間の介護の中で、私も何度も
立ち止まりながら、目の前の利用者さんと
向き合ってきました。
一人で抱え込まないでほしい
介護の仕事は、人の生活や人生に深く
関わる仕事です。
だからこそ、身体だけでなく心が
疲れることもあります。
そんなときに、
「プロなんだから」
「介護職なんだから」
という言葉で、すべてを自分の中に
押し込めてしまうと、いつか苦しくなって
しまいます。
つらかった。
怖かった。
腹が立った。
そう感じた自分を、まず自分自身が
認めてもいいのではないでしょうか。
そして、一人で抱え込まず、仲間と話すことも
大切だと思っています。
感情があるから、人に優しくできる
長く介護の仕事を続ける中で、私はもう一つ
思うようになったことがあります。
それは、感情があることそのものは、決して
悪いことではないということです。
悲しいという気持ちを知っているから、
悲しんでいる人のそばにいられる。
つらいという気持ちを知っているから、
つらそうな人に気づくことができる。
寂しさを知っているから、誰かの寂しさに
寄り添うことができる。
そして、自分自身が誰かに優しくしてもらった
経験があるから、今度は自分が誰かに優しく
したいと思える。
感情があるから、人に優しくできる。
私はそう思っています。
腹が立つことも、悲しくなることも、介護職として
未熟だからではありません。
いろいろな感情を持ちながら、それでも
目の前の人を大切にしようとする。
その積み重ねが、介護なのかもしれません。
介護職員だって、人間です。
腹が立つ日があってもいい。
大切なのは、その感情を否定することではなく、
誰かを傷つける行動に変えず、自分自身の心にも
目を向けること。
私は、そう思っています。
もし今日、介護の仕事で心が疲れている人がいたら。
「こんなふうに感じるのは自分だけじゃない」
そう思ってもらえたら嬉しいです。


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